「1984」ジョージ・オーウェル小説のあらすじと読書感想文

こちらでは
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「1984」ジョージ・オーウェル小説のあらすじ・ネタバレ
【1984】ジョージ・オーウェル・登場人物 
【1984】第一章・あらすじ~ 支配社会での反逆精神 
【1984】第二章・あらすじ~ 思想犯と独裁政治のしくみ
 【少数独裁制集産主義の理論と実践/ゴールドスタイン著】
 ■~第一章~ 無知は力なり
 ■~第三章~ 戦争は平和なり
【1984】第三章・あらすじ~ 独裁制の理由
【1984】ジョージ・オーウェル小説の読書感想文 
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【1984】ジョージ・オーウェル小説のあらすじ・ネタバレ

 「1984」ジョージ・オーウェル・登場人物

ウィンストン・スミス
39歳、真理省で捏造作業に従事。現体制に疑問を持ちテレスクリーンから見えない物陰で密かに日記(「思考犯罪」行為)をつけている。
ジュリア
26歳。真理省創作局に勤務。<青年反セックス連盟>活動員。表面的には熱心な党員を装っているが…。
オブライエン
真理省党内局に所属する高級官僚。他の党員と違い異色の雰囲気を持つ。秘密結社『兄弟同盟』の一員を名乗り、エマニュエル・ゴールドスタインが書いたとされる禁書をウィンストンに渡す。
トム・パーソンズ
ウィンストンの隣人。真理省に勤務。肥満型で情熱的な党員だが思慮が浅い。幼い息子と娘は父同様洗脳済み
パーソンズ夫人
トムの妻。30歳くらいだがかなり老けて見える。親を密告する可能性のある子供達に怯えている。
サイム
ウィンストンの友人。言語学者で調査局のニュースピーク辞書の編纂をしている。饒舌で頭の回転も速いが軽率。言語の破壊に興奮を覚え心酔している。
チャリントン
古い時代への愛着を持つ下町で古道具屋を営む63歳の老主人。禁止されたノートを売ったり、ジュリアとの密会の場所を提供する。
ビッグ・ブラザー(偉大な兄弟)
オセアニアの指導者。肖像では黒髭をたくわえた温厚そうな人物として描かれている。モデルはヨシフ・スターリン。
エマニュエル・ゴールドスタイン
かつては「ビッグ・ブラザー」と並ぶオセアニアの指導者であったが、のちに反革命活動に転じ、現在は「人民の敵」として指名手配を受けている。


※『1984年』の世界のおおまかな地図。ピンクはオセアニア、オレンジはユーラシア、黄緑はイースタシア。
間の白い地域は紛争地域と非居住地域である。

1950年代に勃発した第三次世界大戦の核戦争を経て、1984年現在、世界はオセアニア、ユーラシア、イースタシアの三つの超大国によって分割統治されている。さらに、間にある紛争地域をめぐって絶えず戦争が繰り返されている。

 

【1984】第一章・あらすじ~ 支配社会での反逆精神



オセアニアでは、思想・言語・結婚…あらゆる市民生活に統制され物資は欠乏し、家では画面を消せない「テレスクリーン」から監視と情報を与えられ、街ではのマイクにより屋内外すべての行動が当局に監視される社会だった。そして国の党首ビック・ブラザーの巨大ポスターがいたる場所に張られ「ビック・ブラザーが見ている」と書いてある。
「エアストリップ・ワン(旧英国)」の最大都市ロンドンに住むウィンストン・スミスは真理省下級役人。旧体制やオセアニア成立当時からの記録を絶えず改竄するのがウィンストン仕事だ。
だが彼は社会に矛盾と鬱積を感じ、ある日スラム街プロレチャリントンという老人の古道具屋で美しいノートを買い酔った勢いで反体制の日記を書くと言う命がけの禁止行為を始める。

党では人々の心をコントロールする〈2分間憎悪「ヘイト」〉の時間で反体制の地下組織「友愛党」リーダー・ゴールドスタインを罵る儀式を行う。ソレに疑念を感じるのは「思想犯」となり思想警察に捕まり油断ならない。だが「友愛党」のメンバーもいるかもしれない。
27歳くらいの≪反性交青年連盟≫のサッシュをした美しい女に見られ「密告者かも?」という恐怖心と「魅力的なのに触れない」怒りも感じる。ヘイトの後はB・Bに熱狂し「戦争は平和なり 自由は隷属なり 無知は力なり」とのスローガンを熱唱するなか、高級官僚オブライエンと目を見合わせ「彼は友愛党では?」と秘めた確信のようなものを感じ、その日の日記に「ビックブラザーを打倒せよ」とページ半分も埋め尽くした…きっと思想警察に捕まる。

アパートは崩壊しかけだが委員会は直してくれず、同僚バーソンズの妻が「キッチンの排水溝を見て欲しい」と訪ねてきた。
子供はみな「英雄児童」と評され洗脳済みで思想警察ごっこやユーラシア人の絞首刑を見たいと言い、親を告発する可能性があるので夫人は自分の子供におびえて老け込んでいる。ウィンストンも部屋に帰る途中、娘にパチンコで頭を打たれた。部屋ではテレスクリーンから、敵国ユーラシア軍の凄惨な状況とチョコレート配給が20gに減少が発表される。

ウィンストンの両親と妹は50年代の第1次大粛清にのみ込まれた。50年代後半からの記憶は何もかもボヤけ、覚えているのは戦争中に老人が酒臭い息で涙ぐみながら言った「だからずっと言ってたんだよ、あんなクズども、信用しちゃいけなかったんだよ」だった。
「過去を支配する者は未来を支配する。今を支配する者は過去を支配する」…党は歴史上の出来事は「なかった」として勝利だけ収め続ける「現実制御」をして、党員は真実を知っているのに知らない<二重思考>の思考でいなければならない。

ウィンストンは「現実制御」の改変作業をする。新聞、書籍、パンフレット、ポスター、映画、サウンドトラック、漫画、写真…政治的イデオロギーを持ち得るすべての過去が改変される。 反逆者や思想犯は急に姿を消し、二度と音沙汰も存在した手がかりもなくなる。

昼休みの食堂では友人の同志サイムが面白げに昨日の絞首刑の話をした。彼は言語学者として「言語の破壊」は思想と意識の範囲を狭める〈思想犯〉縮小につなげる作業、辞書・ニュースピーク(新語法)の編集をしている。彼は党に心酔しているが知能が高すぎて党のスローガンの語彙の矛盾に気がつき、軽率な言動や行動が多く「サイムはいつか蒸発させられる」とウィンストンは確信した。
そこへ愚鈍で党の活動に熱心なパーソンズがきて、アパートでの募金集金と子供のパチンコの言い訳、娘がキャンプで怪しい男を密告した自慢した。テレスクリーンからはチョコレート配給が20gに増量された!と24時間前と真逆の発表でもパーソンズとサイムは二重思考ですんなり受け入れた。
ウィンストンには、この生活では安価の合成ジンしか買えるものがなく、衣食住全てがみすぼらしく惨めで自分の権利をすべてだまし取られている感情が拭い去れない。その時あの女が見ていて表情罪への恐怖で日汗が出た。
パーソンズは娘が市場の婆さんがB・Bのポスターで包もうとしたのでマッチで火をつけた、と<スパイ団>で鍵穴に仕掛けられる盗聴器があると自慢話をした…パーソンズは生き伸びるだろう。

ウィンストンは3年前プロレで娼婦を買った。党も貧困街の犯罪は大した問題にしない。
党員間の乱交は「忠誠関係の構築される懸念」から、満足いくセックスは反逆で欲望は思想犯罪とされた。肉体的に惹かれ合う男女に結婚承認は下りず、性交は「党に捧げる子作り行為」で禁欲を主張の〈反性交青年連盟〉は子供はすべて人工授精で公共施設で育児すべきという。党は家族廃止として親は子供を愛する奨励、子供は親に反抗するよう教育、誰もが内通者に囲まれる仕組みにした。党の戯言を鵜呑みにし体をこわばらせセックスする堅物の妻キャサリンとはもう10年別居している。
プロムの灯の下で買った売春婦は、部屋で見ると白髪交じりで歯のない最低でも50の女だったのに、行為に及んだことに下衆な言葉を叫びたい衝動は収まらず、日記セラピーでは効果はなかった。

オセアニアの総人口85%は貧民街プロレで、彼らは衣食住、隣人トラブル、娯楽、スポーツ、酒、ギャンブルで頭がいっぱいだった。思想警察がプロレをイデオロギー洗脳しないのは彼らが日常にしか興味がないからだ。プロレ内の犯罪も結婚も離婚も宗教すら許可される「プロレと動物は自由なり」扱いだからだった。
一方で党員の子どもの歴史教科書は「昔は貧しく貧富の差があり、普通の人は奴隷化していた。資本家は「初夜権」という工場に勤める女と寝る権利がある」と真実かどうかあやしい教育がされる。
70年にはB・Bを除きほかの革命家はみな反逆者や反革命論者として大多数は裁判後、処刑された。ゴールドスタインは逃亡し、ジョーンズ、アーロンソン、ラザフォードという3人の男は捕まり自白後、恩赦を与えられプロレの〈栗の木カフェ〉で過ごしていた。が、じきに捕まり処刑された。
だがウィンストンは3人が載った過去の新聞記事から「自白が強要だった証拠」とわかり体制への疑いは確信へと変わる。

【1984】第二章・あらすじ ~ 思想犯と独裁政治のしくみ


職場の廊下であの女同僚女性ジュリアが派手に転び、助け起こすと手紙で告白を受けた。ジュリアはカモフラージュで青年同盟のフリをして、ウィンストンを一目で反体制と確信したと言う。しかも今までも不特定多数の党員と寝てきたという。

彼女はヘイト活動にいそしみつつ「人生を楽しみたい」と全力でルールを破る。党の協議に関心がないが党への反逆は愚行で、自分の破滅を覚悟もしているが運と狡猾さ豪胆さを駆使して生きながらえるという。彼女と肉欲に溺れて動物的で単純な欲望こそが、党を打ち倒す力に思え、ジュリアも「セックスで幸福感を感じたら、B・Bの寝言に興奮するハズがない」という。

2人はチャリントンの2階の部屋を隠れ家に借り逢瀬を重ね、ジュリアは本物のコーヒーや砂糖、化粧品を手に入れ美しく変身し、激しく求め合い満ち足りた眠りについた。ウィンストンが部屋に出たネズミに激しくおびえたが、それでも本物の砂糖入りのコーヒーを飲みつかの間の充足を味わった。それは狂気の沙汰であり、将来には確実な死が待ち受けている。

サイムが消えた。翌日には誰も噂をしなくなり、3日目に名簿から名前が消えた。
7度2人で会う頃、ウィンストンはジンは欲しくなくなり、体調も良くなり、罵詈雑言を吐きたい衝動も感じなくなった。ジュリアは〈2分間ヘイト〉で吐いても、ゴールドスタインにもイングソックにも関心がない最もプロパガンダに感化されにくかった。日々の事実が改ざんや処刑や虚構の日常にすら興味がないという。
党が押し付ける世界観はそれを理解できない人々が最も泰功している。それがどれほどの非道かも理解もせず、何が起きているか社会の出来事に目も向けない。だから党が現実を歪めても受け入れて、理解力が乏しいおかげで正気を保っている。

ついにウィンストンはオブライエンに話しかけられ自宅に招待された。
2人は「この関係は間違いなく離れ離れになり二人とも拷問で自白することになる。だが自白より連中のせいで愛するのを辞めたら、それが本物の裏切りだ」いかに連中が、人の行い、発言、思考を並べ立てても、人の心まで入って来れないと話し合った.
2人は別々にオブライエンのハイテクで召使たちが行き来している家に行き、テレスクリーンを消す特権もあると言われ、ウィンストンはとオブライエンを「友愛党」の一員と確信し興奮して「党に反逆する日詰み組織があるなら加わりたい、私たちは思想犯で姦通罪も犯している」と告白した。
オブライエンからはゴールドスタインが書いたとされる禁書を渡され体制の裏側を知るようになる。

【少数独裁制集産主義の理論と実践/ゴールドスタイン著】

■~第一章~ 無知は力なり 
この世界は昔から三種類のグループ上層・中層・下層の階級制度から成り立ち、どのような社会的変化が起きても必ずこの階層は復活し、存続している。
★画像★

上層者~「現状維持」を誇示し下層に「不平等は死後生産される」となだめる
中 層~自由、正義、友愛を掲げ下層を取り込み上層を打倒。のし上がると下層は再び元の階級に押しやる
下 層~上層と中層が都度入れ替わるだけで、下層は永遠に下層のまま

 
・どの層に属するかは世襲制、人種は関係なく、16歳で受ける試験により決まる。
・支配者層は血縁でなく、交通教義に対する信奉により決まる
・ヒエラルキー構造が不変であることが重要

INGSOC(イングソック)~オセイアニアの政治理念(イデオロギー)
【INGSOCが生まれた背景】
「工業の近代化(イノベーション)」→豊かな社会→階級や経済格差の撤廃と自由
    ↓
下層階級が不平等さに気付き反逆の可能性!?
    ↓
平等になると上層階級が権力維持できない!
    ||
超大国3国ともに独裁的な思想体制

【INGSOCの新たな貴族階級】

官僚、科学者、技術者、労働組合の組織者、広報の専門家、社会学者、教師、ジャーナリスト、政治家など「金より純然たる権力を渇望し、反対勢力への粉砕意思が強烈」な人物

 
「平和省」→戦争 「真実省」→虚偽 「愛情省」→拷問 「豊穣省」→飢餓
  
【階級保持のための対策】
・「ビックブラザー」に愛情・恐怖・尊敬の念を集中させる
・メディアによるプロパガンダで「正しい本能(犯罪中止・黒白・二重思考)」にする。
  犯罪中止→”ニュースピーク(新語法)”で不適切言語を削除し思考力を止め「防御的愚鈍」にする
  黒 白→「白を黒」と信じ込む能力と「白だった」ことを忘れる能力
  二重思考→改ざん事象を「昔からそうだった」とすんなり受け入れる能力
・「2分間憎悪(ヘイト)」罵詈雑言で発散させる
・厳格な法律統制と明確な階級制度
・市民への24時間監視
・家族の団らんを壊す
・思想警察による市民の監視、拘束、粛清、拷問、投獄など
・集産主義による富と特権の共同保有(私有財産廃絶)
  ↓
 富と権力の一極集中
支配の持続とは、市民の現実感覚を狂わせ、支配者の「絶対感」を維持すること

【支配集団が権力失墜する考えれる4つの原因】
・外部からの征服
・無能な統治による大衆の反乱
・不満を抱く中層の出現ー→有能だが能力を活かせない権力に飢えたタイプを危険視
・支配者の自信と意欲の喪失

■~第三章~ 戦争は平和なり 

3国の各国の政治理念 
オセイアニア→「INGSOC(イングソック)」
ユーラシア→「ネオ・ポルシェヴィズム」
イースタシア→「死の崇拝」

 
・各国とも独立採算制が取れる広大な領土面積 ……→ 国民が豊かになるのが問題!
・経済力、軍事力も各国互角
・政治理念も言い方の違いだけで階級制度国家
・多国領土侵略の国家征服の必要が無い

【戦争の理由「自国の統制=国民のコントロール」】
・各国ともに不平等と支配階層の社会制度の維持ができる
・中層、下層への富の分配をしなくていい
・戦争物の生産と破壊の循環維持(生産しても分配しない)
・戦争の継続がこの循環を維持する
「戦争とは、各国の支配集団が自国の民衆相手に行うもの」

上級国民ですら「二重思考」で自覚しているのに特権の重要性と支配欲が強くなり、戦争ヒステリー過敏になる。また中層以下は「いまは戦時中なのだから、全権を特権階級にゆだねよう」とプロパガンダを素直に受け入れる戦時下における心理状態となり、「2分間ヘイト」などで戦争を肯定し続ける心理となる。
〈党中枢の世界制覇の信条〉の為に・・・
・独立思想を永遠に消し去る
・国民には外国人と接触させず。外国語習得させない、他国の社会制度を知らせない
・科学者(心理学者と異端審議会の混成)は人間の顔の表情、しぐさ、声の抑揚を観察し、あらゆる拷問で自白させる研究
・国内各所に研究所を設け、より強力な爆発物、強い殺傷力の新型ガス、植物を死滅させる毒物、あらゆる抗体に免疫性を持つ病原菌の研究、地中を進む乗り物、基地を必要としない飛行機、宇宙空間から太陽光線で攻撃、地殻の熱を利用した人工地震や人口津波など研究しているが、どれも実現化したことない。

原爆も互いに使用しないのは深刻な敗北のリスクを負うような作戦は取らないからだ。なぜならば、不可欠で必要なのは、戦争状態が存在していること。戦争持続が社会構造の持続で、支配者は権力を永久に手中にできる。それが戦争の目的。つまり「戦争は平和」なのである。

ウィンストンは「なぜ人間の平等を奪うのか?動機はなにか?」答えを読む前に、眠りに落ちた。目が覚めてジュリアと眼下のプロルの太った主婦が歌いながら洗濯物を干す姿に、自分たちには歌を好きに歌う自由もない。人間らしさを持てない「僕らは死んだも同然だよ」と口にした時、壁にかかっている絵が落ちテレスクリーンが現れ、大勢の思想警察と黒髪ですっかり別人のように若々しく見違えたチャリントンが現れた。

【1984】第三章・あらすじ~ 独裁制の理由


ウィンストンは留置場らしき場所に入れられたが、普通の犯罪者は粗暴でがめついが政治犯を無視し侮蔑していた。
驚いたことにパーソンズがいて、寝言で「BBを打倒せよ」を盗聴した娘に告発され「思想犯罪」で捕まっていた。次に入ってきた骸骨同然の餓死寸前の男に太ったあごなし男がパンをあげたのが見られ、あごなし男は黒い血を流すほど看守に殴り飛ばされ、骸骨は「101号室」と言われ「なにもかも白状した!死なせてください!妻子を殺されていもいいから101号室行きだけは勘弁して!」と懇願し指を折られて連行された。しばらくすると、なんとオブライエンが入ってきた。「あなたも捕まったのか?」と驚くと「捕まったのはずいぶんと昔の話だよ」と静かに自虐を込めていわれウィンストンは看守にこん棒で殴られ崩れ落ちた。

ウィンストンは独房で日々の拷問と暴行、時間を空け体力が戻れば再びの暴行された。だが食事に床屋、医者に全身検診され睡眠薬を打たれる。なぜなら本当の武器は12時間続く脅迫尋問で精神的屈辱、恥辱、発言を矛盾と突き罪人扱いし神経衰弱で泣くまで延々と続け、だしぬけに同志呼ばわりしB・Bとイングソックの名のもとに情や悲しげに訴える問いかけに憔悴し、身に覚えのない罪と犯行を自白していた。

これまでの取り調べ指示は全てオブライエンで「私は7年間君を見守ってきた。君を完璧にしてやる」と背骨が折れるような電流を流した。
君は記憶障害だ。起きてもいない出来事を記憶する病気にしがみついているが治療は可能だ」「君がここに来たのは謙虚さを失い、自己鍛錬に失敗したからだ、君は正気を得るための代償である服従をせずマイノリティであることを選んだ。君が見ている「現実」を皆も同じモノを見ていると思い込んでいる。本当の「現実」とは精神の中にしかもので、思い違いも生じるし、いずれ消え去るもの。現実とは人々の集合体で不滅である、党の精神の中にのみ存在するのさ」と4本の指を立てて見せ、ウィンストンが「4本」というと電流を流す。「時に5本になり、時には3本、4本になることもある」という。
過去の宗教迫害もナチス・ドイツ、ロシア共産党もむごたらしく処刑しても、恥辱は審問官に、数年後には死者たちが殉教者となった。それは彼らの自白が強要による虚偽であると一目瞭然だから。それを回避するには異端者を完全に再形成すること。ここに連行された者は一人残らず清められ、最後は懺悔とB・Bに対する愛情とすぐに射殺してくれと懇願するようになる…そうオブライエンは夢見るように話す姿に狂っていると感じた。ウィンストンはこめかみにパットを押し当てられ目のくらむすさまじい一撃の閃光を浴びた。するとこれまで知っていたウィンストンの真実がすべて思い出せなくなり、指は5本に見えた。ジュリアはすぐにウィンストンを裏切ったと聞かされた。

翌日、人格再統合の2段階目、学習。理解、需要に入ると拘束も苦痛も以前よりゆるくなったが、数週間続き終わりが見えなかった。
「君はなぜ愛情省はこれほど手間暇を自分にかけるのか、党が人々を支配する理由を疑問に思ったのだろう?」と問われた。その答えは「『純粋な権力』を欲するから。
ナチス、ロシア共産党はその動機を認める勇気のない臆病者か偽善者。社会を変えようとする者も権力を握りたいだけに過ぎない。権力とは目的。迫害の目的は迫害。拷問の目的は拷問。権力とは集団が生み出すモノで、個人は個人をやめることで初めて権力を得られ、党のスローガン『自由は隷属なり』は『隷属は自由なり』とも言える。孤独(自由)は必ず打ち負かされ、そうでなくてはならない。完全服従、自分のアイデンティティーを放棄でき、党と融合し専心できるほど不滅になる。
神は権力。権力は精神を支配する。人の現実の支配は物質も支配し、苦痛と恥辱を与え人の精神を八つ裂きにし、我々が全知全能となれば化学なども必要なくなる。人間の欲を抑制し党への愛と信頼に変え従わざるを得ないようにするこれが権力の醍醐味だ。君のような人物は永遠に表れ続けるが、必ず最後には我々の足元に縋りつくようになる、それこそが我々が作ろうとしている世界だ。
ウィンストンは人間の精神の力を信じていると反論した。するとオブライエンはウィンストンを立たせその姿を鏡で見せた。そこには腰の曲がった灰色の骸骨がいて、所々禿げと白髪、ボコボコの額、ボロボロでしわだらけの頬、ガリガリに痩せた体は60男がいた。
「君はもう腐りかけ、崩壊寸前なんだよ。君が人間だとするのなら、それが人間性なのだ」泣き崩れたウィンストンは「あんたがやった」と叫んだが「それは君自身のしわざだ。党に歯向かうと決めた時こうなることを受け入れたのだ。まだ人として誇れるものがあるかね?」に「ジュリアを裏切っていない」と思い出した。そして「いつ射殺されるのですか?」と聞くと「治療が完全に終えたら、その時」

「治療」は次の段階となり何か月も身体の治療、温かい上等な食事と睡眠、清潔な環境が与えられ、タバコや時間の把握さえできた。ただ起きている時、頭が働かずぼんやり過ごしても退屈も感じず、何かしたいとも思わないが自分で再教育に取り掛かった。
「正しいのは党のほうなのだ。不滅の集団的頭脳が過ちを犯すなどありえない。正気とは統計で決まるのだ。重要なのは彼らと同じように考える方法を身に着けることのみ…。」なぜ自分が反逆などしたのか、思い出せなかった。いつか自分は銃殺されるが背後から後頭部を打たれるという。だがフッとジュリアを思い出し「ジュリア!愛しているんだ!」と叫んでいた。まもなくオブライエンが現れて「B・Bをどう思うか?」質問した。ウィンストンは「憎んでいます」と正直に答えると治療の最終段階として「101号室」行きとなった。

101号室では椅子にきつく拘束され、頭にもパットをはめられた。オブライエンは「101号室にあるのは、世界で最も恐ろしいもの」「それは人によって違う…中には命取りと思えぬものすらある…君の場合、ネズミのようだな」長方形のゲージの正面にフェンシングのマスクのようなもので仕切られていて、ネズミが入っていた。「痛みは苦痛を耐え抜くことができる。だがどんな人間でも本能的に耐えがたいものがある」近づけられるネズミにウィンストンは死にもの狂いで、もがき吐き気や失神しそうになる。そして狂ったように「ジュリアにしろ!僕じゃない!あんな女どうなろうと構うもんか!ジュリアだ!」と叫んでいた。

〈栗の木カフェ〉はほとんど空席だった。ウィンストンのグラスにはウェイターが勝手にジンを注いた。戦争について考える集中力もなくなり釈放後、顔は肉付きが厚く酒焼けの下卑な赤色になり、禿げあがった脳天まで薄いピンクになった。
カフェではいつもウィンストンの席は空いていて、どんなに飲んでも料金が安い時もあるが、週に2日のだけつまらない閑職をあたえられたので金はたんまりあった。
3月の凍てつく寒さの公園で偶然ジュリアと会った。一目で彼女は変わったと分かり、ジュリアは逃げようとしたが観念し彼と向き合った。彼女の腰に手を回すとその顔は土気色で、髪の毛で隠した長い傷跡や体はすっかり太く固くなっていた。ジュリアは「あなたを裏切ったわ」とあけすけに言いウィンストンも言う「君を裏切った」に嫌悪のまなざしを見せながら「もう同じ気持ちはもてない」と言った。また会おうとお互い言ったがもうかわす言葉もなく別れた。
ウィンストンは早く〈栗の木カフェ〉に戻りおぞましいジンの味に浸りたかった。仕事の日以外は閉店までカフェで過ごした。突如けたたましいトランペットが空気を引き裂き、オセアニアの大勝利のニュースが流れた。ウィンストンは心の中で大歓声を上げ、処刑される日を思いながらB・Bの巨大な顔を見上げた。自分はなんと頑固で傲慢に愛に満ちたあの胸に背いてしまったのだろう。彼はB・Bを愛していた。    

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【1984】ジョージ・オーウェル小説の読書感想文

本ページでは

まんがでわかるジョージ・オーウェル『1984年』
 

1984(角川文庫)~2021年03月24日新訳版

まんがでわかるジョージ・オーウェル『1984年』は、作品の世界観をザっと知りたい人や、独裁政権の世界観を深堀するのはツライ、という人には読みやすいかもしれない。ただし3人の登場人物(ウィンストン・ジュリア・オブライエン)にのみ焦点を当てているので、他の登場人物の悲劇や事象を知ることができない。また監修者が現代のIT社会の利便性とそれを使いこなしている中国の監視社会について『ほとんどの人は実に便利かつ楽しく暮らしつつ、そこから外れた少数派は実に効率よく監視・弾圧される…民間の信用情報が整備されていない中国において、それにかわる社会信用を整備しようという試みでしかない。この仕組みは悪用されれば問題だけれど、そうでなければ、全行がキチン超過されると言う望ましい仕組みでは?』
・・・と「まるでプロレ相手」に解説しているのか?とも感じられたので、監修者のワナに陥りそうなので注意です。

小説版については、新訳版でも読むのはなかなか読解力が必要かもしれません。ただし独裁政治の前段階が改革を掲げる政治家による洗脳から始まり、独裁政権下で国民はどのように騙され搾取されるか?、生存欲求から来るあえて党の犬になるパーソンズの性、政府を支持しているのに危険人物として粛清されるサイム、自己欲求のみで政治も正義も興味のないジュリア、世の中の理不尽さへの怒りから、用心を欠いてオブライエンに希望を見出し破滅するウィンストン。
など、この社会での人々の生きざまは、おそらく独裁政権になったときどれかが自分が鳴る姿なのかもしれません。

この本を手に取った人とは、少なくとも「プロレ」の人たちのような日常にしか興味がない類とは違うでしょう。
ですが、ウィンストンが捕まる前に生涯下層の奴隷的身分でありながらも、愛することや自由に歌うことのできる主婦をうらやむ姿に「プロレであることは不幸なのか?」という疑問が頭をよぎります。
洗脳されるか、愚鈍であるか、二重思考を受け入れれば「自分は権利を奪われている」ことにすら気が付かないのですから。

人はまず「無知の知」を知ることで、世界の見え方が変わるものです。ですがその見えた世界は決してバラ色ではなく、そこからどう生きるかの模索が始まるです。
ウィンストンがオブライエンに「友愛党かも?」と希望を抱いたのは、そこに救いを求めたかったのでしょう。まるで宗教や占い、超能力を信じるかのように。だがそこから始まったのはウィンストンの破滅だけでオブライエンの「孤独では何もできない」通りにアル中で死を待ち望むだけの存在となりました。
オブライエン自身、かつてその部屋で拷問にあったと語りましたが、今は「ただ権力を欲する」党の上層部の人間であるはずのオブライエンが、ウィンストンが拷問中に気が付いた「よく見ると老けているオブライエン」の心中が本当に満たされているのか?は計り知れないません。

おそらくこの作品の中で最もまともだったのはウィンストンの記憶にある、50年代の戦争時に酔って泣きながらぼやいた老人でしょう。「だからずっと言ってたんだよ、あんなクズども、信用しちゃいけなかったんだよ」
この老人はB・Bの改革に反対したことでしょう。ですがナチスやロシア共産党のような勢いに、何もわからない足かせにしかなれないプロレたちに、この世界が呑み込まれたのでしょう。我々にできることは、自由と平等をうばおうとする動きに常に敏感になること。だれがどんなクズか?の共通認識を広めることでしょう。

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