【優しい音楽・ 瀬尾 まいこ】ドラマあらすじネタバレ感想~死別の喪失感とティアーズインヘブン

【優しい音楽・ 瀬尾 まいこ】
     
    混雑した駅中、彼女は驚いた様子でまっすぐ僕の方へ歩いてきた。
    それが僕たちの出逢いであり、恋人同士になるきっかけだった。
    でも、心も身体もすっかり馴染みきったある日、唐突に知ってしまう。
    彼女が僕に近づいた理由をーー。(表題作「優しい音楽」)

 
「優しい音楽」は作家 瀬尾 まいこ氏の2019年出版された短編集の中の1作です。
2022年、お正月の新春ドラマスペシャルとして主演・土屋太鳳、相手役には永山絢斗、佐藤浩市(友情出演)、安田成美 仲村トオルで放送されます。

こちらでは
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【優しい音楽・ 瀬尾 まいこ】あらすじネタバレとドラマ化 
【優しい音楽・ 瀬尾 まいこ】感想~死別の喪失感とティアーズインヘブン 
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【優しい音楽・ 瀬尾 まいこ】あらすじネタバレとドラマ化

新春ドラマスペシャル「優しい音楽〜ティアーズ・イン・ヘヴン 天国のきみへ
【放送日時】 2022 年 1 月 7 日(金)夜 8 時から放送!
2022 年の年始は「優しい音楽」で〝ほっこり〟〝ドキドキ〟〝ハラハラ〟しませんか?

あらすじ
大学教授でギターが上手な父・雅志、歌がうまくて完璧な母・桂子と暮らす女子大生・鈴木千波(土屋太鳳)が、いつもより早く家を出たある朝のこと。江ノ電のとある駅に着いた千波は、ホームにいた永居タケル(永山絢斗)を見るなり、思わず立ちすくみ激しく動揺する。だが心当たりがないタケルは、話し掛けられても困惑するしかなく…。 広木克彦が営む小さな造船所で日々真面目に働くタケルは、古い木造アパートでひとり暮らし中。家には過去に何かあったのか、家族写真や父母のものらしき眼鏡が大事に飾られている。そんな境遇の違う2人は、奇妙な出会いを経て、やがて恋人同士に。ところが千波は、なぜかタケルを両親に会わせようとしない。その衝撃の理由を知ったタケルは――。 鎌倉を舞台に、それぞれが忘れられぬ過去から新たな一歩を踏み出すまでの〝再生〟を描いた、音楽が繋ぐ優しさ溢れる愛と絆の感動物語!

【優しい音楽・ 瀬尾 まいこ】あらすじネタバレ

千波は、なぜかタケルを両親に会わせようとしない。デートのあと家の前まで送って行ってもそそくさと家に入る。どうして家族と会わせるのを拒むのだろうか…。


ある日の出勤時の混雑した江ノ電駅ホームにいた永居タケルは、人をかき分け迷わず僕の元へやってきた見知らぬ清潔感のあるキレイな女の子にまぶしそうに見つめられ動揺した。彼女から「鈴木千波です」「びっくりして…」と話しかけてきたのに彼女は困惑して話も続けらないし、タケルも彼女が何しに声をかけてきたのかわからず戸惑ってしまう。だが翌日も千波はホームでタケルを必死で探し、最初は「ストーカーか?」とさけたがキャッチセールスのような感じでもなかったのでタケルから話しかけ毎朝電車の10分だけ話すようになった。
英文科の19歳の女子大生で辞書を3冊持ち歩き、タケルが23歳と聞き「ぴったりだ」と驚いたり、最初彼女も「一目ぼれしたんです」と言ったくせにデートに誘うと「毎朝会えてるのにナゼ?」と言う。タケルの「(千波と)仲良くなりたい、好きだし」に千波はハッとした顔になり笑いながら「ホントわかんなかった」「永居さんってそういうんじゃないから」と言ったが「恋人にならないと一緒にいてくれないの?」と考え込み「明日から恋人ね」と付き合うことになった。



千波は努力しようと思った。
タケルとは恋人になるのが一番適切だった。存在だけを確かめたいなんて虫のいい話だし、その気はないが少しガンバレば上手くいくと思った。
タケルの困った時の笑い方にはデジャヴを感じこれからも何回もそう思うのだろうと感じた。土日のデートもお互い気を配れるのが上手かったので心地よかった。だがなかなか濃密な感じにならず、初めてのキスですら千波は集中できずうまくいかなかった。「僕たちはキスする関係でもない気がするね」と笑ったがその距離感に不満を感じているのがわかった。
次のデートで千波は「そうそう、私はタケル君の味方だよ」と唐突に切り出し、次に「実は私、書道3算段だからスゴイの」と“ギャップ”を披露した。「会話が取ってつけたようで変」と言われたので「男を虜にする5つのポイントなの」と種明かしをすると「効き目ないんじゃない?」と笑うタケルにまたデジャヴを感じた。
千波の20歳の誕生日にタケルは「重そうだから家用に」と3冊の辞書をくれた。それは兄も入学祝いに3冊くれたので同じことをする人がいた驚き、本当にうれしくて喜んでいたら逆にタケルがありがとうと言って、本人もなんでそう言うのか首をかしげていた。でもその時千波にデジャヴは起こらなかった。



千波はタケルを好きになった理由や好きなところを考えなくても、心地よい関係になりデートも出かけるより話したり、触れ合ったり家にいる方が楽しくなった。タケルの体温も匂いも声の調子とか、柔らかですべすべしたおなかの上に頭を押し付けていられるのが幸せで、動機は不純だけど恋人になれて良かったと思った。2人で家デートしているとそれぞれの育った環境の違いを感じたが、それも愉快だと感じられた。
ある日タケルの太ももの付け根に湿疹ができ、それはみるみる悪化して、千波には見せたくなくて10日もセックスをさけていた。2週間たったころ千波から問い詰められついに湿疹を白状した。
翌日、千波は病院から薬をもらってきて恥ずかしいのに強引に風呂場で股間を洗われすごい格好で薬を塗られた。千波は「家族みたいだね」というが「まさか。母親や妹にだって絶対、俺こんなことできない」と言うと、千波も「確かに。タケル君だからできる…すごいね、恋人って」とお互い感心し僕たちは「愛してる」と変な恰好で言い合った。その日は遅くなり家の前まで送って両親に挨拶した方良くない?」と言っても「いい気しないと思う」「父は酒乱で母は酒豪なの」と嘘を言う。



渋い顔をされたが、付き合って半年たちやっと挨拶に行けることになった。
彼女のお母さんは一目僕を見るなり固まってしまい、お父さんは何も言わず僕の顔をまぶしそうに見つめた。その確かめるように真剣な強いまなざしも、名前すら知らないごちそうでの夕食中も僕個人の食の好みや家族や趣味などへの質問、一挙一動を見つめるまなざしも最初の頃の千波ちゃんと同じだった。夕食後リビングでケーキを食べることになり、そこにあるピアノの上の1枚の写真を見て僕は息が止まった。その写真をみて一瞬で僕は千波ちゃんが近づいた理由、会わせてくれなかったのに両親の親し気な態度の疑問が一気に解けた。
わかっているのに千波ちゃんに「お兄さんはどこにいるのか?」問い詰めるのをやめれなかった。家を飛び出したくて、来たことを後悔してこの家のやさしい空気が気づまりで味のしないケーキを食べた。千波ちゃんは「聞かれなかったから言わなかった」「どういう出会いだったら正しいの?」というがなかなか恋人になれなかった理由も腑に落ちた。僕は何に腹を立てているのかわからなかった。

翌日千波ちゃんはホームで待っていて、出会いの事実はどうであれ今は彼女に愛されていると気持ちの整理はできていた。千波ちゃんはボクがあげた辞書をやはりもって歩き「前の辞書が使いにくくなった」という。お母さんは勝手に僕の料理の好みを決めつけて、お兄さんの大好物のリゾットを出してきたがボクが受け付けないのを見て悲しそうにした。お父さんはボクとお酒を飲めるのを喜び「2人で登山をしよう」と誘われ、とても良い経験だったけど、お父さんは僕との時間は癒しと息子じゃないことへの再認識に傷ついているのを感じ、僕は途方に暮れた。
千波ちゃんとデザートを食べている時、実は音楽一家でピアノの上のフルートはお兄さんので千波はピアノ、お母さんが歌い、お父さんがギターを弾くがもう演奏はしなくなったという。僕はお父さんの誕生日も近いからおもちゃみたいなフルートを買って練習を始めた。

誕生日にはたくさんのごちそうがならび、食後会話も途切れたころに「何か演奏しませんか?」と切り出した。
「僕はお兄さんとは違う。似ていることを光栄に思うし、悲しくも思う。ただ僕は千波さんが好きだし、お父さんやお母さんがうれしそうな顔をされるのを見るのは嬉しい」それまで誰も“誠さん”の存在に触れなかったのを崩したからお父さんもお母さんも戸惑っていた。でも後には引けなかった。僕は「まだ2,3曲しか吹けないクランプトンはどうですか?」と千波が時々口ずさむ曲を提案した。お父さんは手入れしていないギターを出してきて、お母さんも発声練習を初めて、ボクのフルートはひどかったけど僕たちの演奏は美しく素晴らしかった。帰り際、お父さんはちゃんと僕の顔を見て「また来てね。タケル君」と僕の名前を呼んだ。

エピローグ
千波ちゃんは送ると言い「兄はフルートは吹けなかったわ」と言った。友達にもらったけど難しくてあっさり諦めて投げ出したものだったという。
僕はどっと疲れたけど千波は「あんな素敵な曲、お父さんもお母さんも私もきっと聞いたことないと思う」という。空気が動き出した気がしたのは、家族がよみがえったからじゃなく、新しくなったからだったのだろうか…「タケル君は兄とは全然違う。フルートだって吹ける…私、タケル君が好き」嬉しそうな千波に僕はうなずいた。


「ティアーズインヘブン」はエリック・クラプトンの代表曲であり、亡き息子への鎮魂歌でもあります。
この曲のできたいきさつを知ると、とても胸が痛くなり物語の千波一家の悲しみを感じ取れ、ドラマを見る姿勢も背を正すような気持になります。
小説では家族そろってこの曲を演奏するシーンが入るはずですが、出演される俳優さんたちが実際に演奏するのか?要チェックです。

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【優しい音楽・ 瀬尾 まいこ】感想~死別の喪失感とティアーズインヘブン


「ティアーズインヘブン」の曲ができた経緯に号泣

みんなの感想

●瀬尾さんの本は、まず出だしでつかまれる。「え?どういうこと?」から始まり、自然と話に入っていく。そして登場人物がみんな優しい。こむずかしくもなく、すぐ隣にありそうな日常に感じてしまう・・・本当はありえない設定なのに、そこが瀬尾マジックなのだろうか。すべての話が、きっとその先ちょっと優しく楽しいんだろうな、と思わせる、読後感のとてもいい本。

●一話目、実兄とそっくりな男性と付き合う女性ってちょっとどうなんだ。・・・総じて、あんま心地よく感動という印象はなく、感動をあおりまくる帯とのギャップが印象的でした。私の読解力の問題かもだけど。

●懐の広い人達ばかりで、「え、私なら考えられない」となりつつも引き込まれて、最後はほっこりする3つの短篇集。 彼女が最初に近づいて来たのには秘めた理由があった『優しい音楽』… 共感できないはずなのに、読み終わった後には優しい気持ちになる不思議な1冊だった。

●「あくまでも二人の交流を通して人間関係の不可思議さ、倫理観の多様さをあらわして行く。そこが瀬尾まいこの小説の奥深さである。」池上冬樹さんの解説。「瀬尾まいこをまだ読んだことのない人の入門書として最適ではないかと思う。」表題作の短編で主人公と彼女との出会いのシーンは強烈な印象。あぁなるほどそういうことかぁー。

●現実には有り得ない関係性から紡がれる優しさに満ちた物語には、ゆったりとした時間が流れていて、文字の中の非現実を非現実だと感じる違和感よりも心を包んでいくのは、あたたかさ、いや、私自身の現実に対する心の余裕だ。人生の、ほんの少しの不幸、嫌なこと、少しだけ舌打ちをしたくなること、それ等への負の感情が軽くなっている。そんなことに、些細な幸せに、嬉しくなった。

●近親愛?・・それに近い内容の恋愛&家族愛。好きになった相手が実は子供の頃に離れ離れになった兄と妹だった、というのなら韓国ドラマなどでよくみられる基本のプロットだが本作は違う。死に別れた兄とそっくりの相手との恋愛ドラマ。現実世界では決して自分には訪れることのない内容のため「他人事」として気楽に読める安心感(笑)。三部構成に分かれておりストーリーも複雑ではなく分かりやすい。読了後ホッコリさせられる良書。

●家族は亡くなっているのに、そっくりの人物が現れたら?遺族は当然その他人の中に愛する人と同じ要素を求めたくなる。同じ特徴があれば「生まれ変わりではないか?」だがちょっとしたしぐさの違いに「やはり他人だ」と期待と喪失を繰り返す。人間は愛する人を見た目で愛するのか?それとも内面を愛するのか?もし見た目が同じ入れ物だけでもいいから側にいて欲しいと思うならそれは緩やかな狂気なのかもしれない。客観的に考えると兄にそっくりな人と恋人になるのは「もしかして遠縁の親戚かも?」と心配になるし、キモチ悪さも感じる。だがこの物語は彼は結果的に「僕は別の人間、でも皆さんが大切です」と気持ちの切り替えを優しい音楽で伝えてしまった。死別の喪失感とはそう簡単に拭い去れるものではない。でも痛みを抱えたながらも新しい風を受け入れる事は必要なのだと思った。



作者、瀬尾まいこさんの作品はどの作品もほんわか優しく、ですが見方によればなかなかえげつない設定で「ちょっとマズくない?」というものです。白黒はっきりさせないけど、はっきりさせないといけない。そんな時はやさしく思いやりをもって彼のように伝えると、気持ちの切り替えができるのかもしれません。

近年では亡きペットのクローンを作って喪失感を癒すというビジネスもありますが、日本人にはちょっと倫理的にムリかもしれませんね。

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